ロンリーハーツ
見ていいのは彼女だけ
盛っているちとせさんをこれ以上煽らないよう、僕はあえて落ち着いた態度を崩さなかった。
でも内心は、早くちとせさんに触れたくてたまらない。
さっき我慢できなくてキスしたのはまずかった・・・。
触れたいという欲は、高まる一方だ。

まったく、どれだけ僕を煽れば気が済むんだよ、ちとせさんは!





車内という密室で、どうにか運転に集中していた僕は、助手席(となり)からグーッという腹の虫が鳴く音を聞いたとき、こらえきれずに笑ってしまった。

「あんた笑いすぎじゃ!横腹チョップするぞ!」
「ああすみません・・・なんか緊張の糸がブッツリ切れたみたいで・・・ちとせさん、おなかすいた?」
「・・・うん」

色気より食い気・・いや、ちとせさんの場合は、色気も食い気も真っ盛りだ。

飾ったところが全然なくて、真っ直ぐぶれずに・・・ぶっ飛んでいて。
一緒にいるとスカッとする。
外見も内面も「キレイなお姉さん」だ。

運転中の僕は、前を見たまま「お寿司食べたいなあ」とつぶやいた。

「いいねーっ!回転寿司行こうよ!」
「いい店知ってる?」
「そおねえ。ここからあんたんちの通り道だったら・・・やっぱりカッパ横丁かな」
「じゃあナビよろしく」
「おうよ!まかせとけ!」

というわけで、ちとせさんのナビで、僕たちは回転寿司屋へ行った。










「おいしかったですねー」
「藍前、カッパ来たの初めて?」
「はい」
「近くにあるのに」
「ひとりで回転寿司っていうのも、なんか物悲しいし。かといってデートで行くっていうのもなかったし」
「えーっ!じゃあこれが回転寿司デビューだったの!?」
「いえいえ。家族や男友達と何度か行ったことありますよ。ここじゃないけど」
「そう。でも初めてだったんだ」
「はい?何がですか?」
「回転寿司デート」
「あぁ。言われてみればそうですね」

・・・ちとせさんって不思議な人だ。
洒落たイタリアンレストランや、格式ばった料亭にいても、逆に屋台のラーメンや回転寿司屋にいても、似合うというか、サマになってるというか。
とにかくその場になじんでる。

だからだろうか。
ちとせさんと一緒だったら、どこへ行っても、どこにいても楽しいと思ってしまうのは。

「ちとせさん」
「はい?」
「行こう」と僕は言うと、ちとせさんの手を引っ張って歩き出した。










なぜ僕は、今までちとせさんに関わらないようにしてたんだろう。
なぜ僕は、ちとせさんを苦手視してたんだろう。

それは、ちとせさんと一緒にいると、僕の心がハラハラしてしまうのが嫌だったから。

でもそれは、僕の思い違いだった。
ハラハラしてたんじゃなくて、ワクワクしてたんだ。

僕の心や気持ちをそんなに・・・かき乱した女性は、今までいなかった。
心をかき乱されたくなくて、そんな風に思う自分が嫌で。
だから僕は、ちとせさんを避けていたんだ。

だから「新城先生」という距離を、ずっと保っていたんだ。

「ん・・・あぁ!」
「気持ちいい?ちとせさん・・・」

ちとせさんが、上にいる僕を引き寄せる。
僕はキスをして、彼女のおねだりに応える。

でもそれだけじゃ足りない。

「もっと・・・ねだってよ」
「は、あ・・・な・・・」
「もっと僕のこと・・・欲しがって。欲しいって言って」
「そん、なベラベラ・・・よゆ・・・な・・・」
「じゃ、ちとせさん。そろそろ・・・イこうか」
「んっああっ!」
「キレイだよ、ちとせさん・・・好きだ」
「は、あ、あいぜ・・・ん・・・」

伸ばしてきたちとせさんの手を、僕は優しく握った。
僕が奥深く突くたびに、ちとせさんの手に力がこもる。

そろそろか。
ちとせさん、もうすぐイきそうだ。
そして僕も・・・。

「・・・き。伊吹・・・」

ちとせさんが僕の手をグッと握った。
と同時に、僕たちはイった。

一緒に。






翌朝。
目が覚めた僕は、隣で寝ているちとせさんの後姿を眺めていた。

お互い汗をかくほど動いた、というのを抜きにしても、夏の今は暑い。
布団はベッドの下に落ちていたけど、なくても大丈夫だ。

ちとせさんは、僕に背を向けた横向きで寝ている。
規則正しく波打つちとせさんの背中を見て、僕は思わず笑顔になった。

何だろう、この・・・安堵感は。

僕の白いTシャツは、ちとせさんにはブカブカだ。
でも女らしいくびれのラインは、Tシャツ越しにハッキリ浮き出てる。

だからなのか、僕はちとせさんに欲情し始めている。

ちとせさんの腰は、僕の手一つ分の大きさしかないのか。
こんなに細い体の中で、赤ちゃんが育つのか?

・・・いや、それはまだまだ先の話だ。
昨夜はちゃんと避妊したし!
ちとせさんは最初ご不満の様子だったけど、そのうち楽しんでくれて・・・。
とにかく、僕までぶっ飛んでしまったら、誰も引き戻す人がいないわけで!

僕はちとせさんにすり寄った。
僕の右手をちとせさんの腰のくびれに添え、左手は、ちとせさんの顔の近くに伸ばす。
そしてあらわになってるちとせさんの右肩にそっとキスをすると、ちとせさんは僕の左手を握った。

「ごめん。起こした?」
「いー。まだ寝てるから」
「にしては、ちゃんとしゃべってるね」
「立派な寝言と言いなさい」

ちとせさんが僕の方に向きを変えた。
と思ったら、僕を引き寄せてキスしてきた。

ちとせさんも欲情し始めているのか、口を開けてきた。
僕は喜んで彼女の要望に応えるべく、舌を絡める。
そうしてお互いの味を、しばし堪能した。

「・・・おはよう」
「おはよ」とちとせさんは言いながら、僕の顎や口まわりを撫でている。

「ひげ剃らないと。ちとせさんの肌、赤くなってる。痛いでしょ」
「痛いけどいい。無精ひげなあんたの顔、めちゃくちゃセクシーで好きだし」
「これで仕事行けないな」
「行ったことないくせに。それに今日も休みでしょ。だから・・・いいよ、そのままで」

つい絡めている脚に力が入ってしまった。

「うん」
「こんなにセクシーなあんたを見ていいのは、私だけなんだからね」
「分かりました」

ちとせさんを甘やかしたい。
そしてちとせさんを思いきり乱したい。

そんな衝動に駆られた僕は、ちとせさんの首筋に舌を這わせた。

「ん・・・」
「ちとせさんも、だよ」
「なに、が・・・」
「僕だけに見せて」
「な・・・」
「いろいろ」と僕が耳元で囁く。

それを合図に、僕たちは欲望を発散し始めた。


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