Pair key 〜繋がった2つの愛〜
3. 支配編

悔恨と塊根


*side 俊哉*

思ってもみない返答だった。
あまりの事に耳を疑った……これまでの流れから考えて当然、受け入れられるものだと思っていた。
なのに、なんだ?このあり得ない敗北は。

まさに天狗が鼻をへし折られる状況となった――


(こんな展開、あり得んだろう……普通、ここまできて)

私は愛音の真意を計りかねた。今のこの関係は、期限付きだと……そういうことなのだろうか。

(終わりが来ることを恐れていたくせに、私と生涯を共にする気はないと。結局は、一時しのぎの関係に過ぎないと?)


しかし考えてみれば当然かもしれなかった。
今時の若い娘が、社会に出て自らの力で思うままに生き始めて早々に、身を固め、何かにつけて縛りの多い未来を選ぶなど、考え難い……そう多くはいないだろう。
まして誰かに依存して生活するなどということを、安易に受け入れるような性格でもあるまい。

しかし私は愛音が今時の娘とは異なるように思っていた。
それは気性であり、境遇であり、これまで共に過ごしてきた時間の中で得た、確信に近い印象だった……

だからといって、古風とは限らんしな――

たった二十二の、新卒と変わらない年齢でありながら、社会経験が五年目になる女。
培ったキャリアは本物だろう。そして今後ますます勢いを付けてゆく——
確かにこの歳で安定を望むのは早過ぎる……可能性に溢れた若さ故、懸念や恐れも皆無だろう。

当然と言えば当然。私とて愛音の歳にはそうであった。
今以上に、先へ進むことや、己の力を試すこと、幅広い視野でもって経験を培い、結果として功績や地位を手に入れる……そんなことしか頭に無い。
しかしそれこそが、二十代の持ち味というものではないのか――

私とは住む世界が違う、考え方や感じ方が違う。そもそも世代が違い過ぎた……

(……ならば何故、十二も離れた私と付き合い続けているのだろうか。二年近くもの長い間……何のために?)

まさか——と、一瞬だが、嫌な予感がよぎった。
今までの、おおかた財産目当てだったのだろう者達と、愛音は違う。それは、とうの昔に知れた事。
なのに頭をよぎってしまう憶測。邪推。もしそれが真実だとしたら、最高の悪夢だと言える――

(あり得ない。それこそ100%有り得んな……)

だとすると一番可能性が高いのは、仕事の延長線上に私との関係が在るということぐらいか……
向上心の強い女だ、そういう意味で、私の側に居たいと望んだとも限らない。
それが発端で、情が移って今に至ると……そう解釈できなくもない。
離れたくないという意思も、恋人じみた嫉妬も、気に入った玩具を独占したがる子供のような拘りかもしれぬ。
“遊び” “玩具” ――

こんな小娘に、もて遊ばれているというのか?
長い間ずっと騙されて、いいように利用されていたと言うのか……この私が?


(あり得ん。そんな馬鹿な事があって堪るか……)

あまりにふざけた憶測だと我ながら思う。
笑い飛ばしたくなる程に馬鹿馬鹿しい……

なのに何故か、心のどこかに、その可能性を強く疑う自分がいた――


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