不機嫌主任の溺愛宣言
Prologe

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AM9時45分。
地方都市の駅前にある老舗デパート『福見屋』。その地下1階では毎朝恒例となっている朝礼が行われていた。

福見屋の地下1階は洋菓子店や惣菜店が所狭しとひしめき合う、いわゆる“デパ地下”。入店してる食品店で働く従業員はほとんどが派遣社員だ。

さまざまな派遣会社から送り込まれた、いわば烏合の衆。アルバイト感覚の若者もいれば、この道数十年のベテランもいる。派遣会社の条件によってはやる気もバラバラだ。そんな従業員らを統率し管理するのが――

「先週は例年に比べどの店舗も売り上げが0、2パーセント以上の落ち込みを見せています。ひとりひとりが責任と危機感を持って接客に当たって下さい」

前園忠臣(まえぞの ただおみ)、福見屋デパート大宮店地下食品担当主任、35歳である。

この前園という男、身長181センチの高身長に整った顔立ちで。ミディアムショートの黒髪をアップバングにした清潔感のあるヘアスタイルに、筆を引いたような睫毛の伏目がちの瞳がなんとも言えない大人の色気を醸し出している。容姿だけで言えば完璧な“モテる男”だろう。

けれど。いつも掛けているスクエア型をしたメタルフレームの堅苦しい眼鏡が、真面目で気難しく仕事に厳しい性格が、そして何よりニコリとも笑わない常に不機嫌そうなその顔が。

彼に“ミスター不機嫌”と言うあだ名を付けさせ、従業員を遠巻きにさせていた。

そして今日も。お説教で始まりお説教で終わった彼の朝礼に、集まった各店舗の従業員達が密かに眉を顰めている。

「まーたミスター不機嫌のお説教尽くしだよ。朝からウンザリしちゃう」

そんなヒソヒソ声が聞こえてきても彼は気にしない。批難されようとも自分は業務に忠実であるだけだと。けれど。
ただひとり。たったひとりの従業員のむくれた顔を見つけて、忠臣は心臓が凍て付きそうなショックを覚えた。
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