赤い流れ星3
side 和彦




「ねぇ、野々村さんっていくつなの?」

歓迎会が終わり、居間で寛いでいると、美幸が唐突にそんな質問を口にした。



「え…?
確か、俺より三つ上だったと思うけど…」

「って、ことは三十九歳か~…」

美幸はそう言いながら、ゆっくりと頷いた。



「……何なんだ?
野々村さんの年がどうかしたのか?」

「どうって…
ぱっと見た感じは四十代かなぁって思ったんだけど、近くで見たらけっこう肌とか綺麗だし…
それに、私にも敬語で話してくれるから、もしかしたら意外と若いのかなぁなんて思って…」

「別にどうでも良いじゃないか、年なんて…」

「気にしてるわけじゃないんだけど、見当が付かないからちょっと気になっただけ。
やっぱり私よりずっと年上だったんだね。
でも、野々村さんは話しやすくて感じの良い人だね。」

「そうだな…」



今日の野々村さんはなんだか少し様子がおかしいような気がした。
はっきりとどこがどうおかしいかはわからないが、どことなくよそよそしいというのか…
帰りも俺が送っていくと行ったのに、タクシーを呼ぶと言ってさっさとタクシー会社に電話をかけた。
そのことが、まるで、俺のことを避けているように感じられた。



(……もしかしたら、あの事を怒ってる…?)



野々村さんが俺のことを想ってくれているとわかった時…
たまらないほど野々村さんのことを愛しく感じてしまい…気が付いたら俺は彼女に口付けていた。
考えてみれば酷く失礼なことだ。
俺が戯れにそんなことをしたと思われているかもしれない。
彼女には仕事面だけではなく、お互いのいろいろな隠し事も話していたから、信頼してるのは間違いないが、女性として意識したことはなかったはずだ。
なのに、なぜあんなことを…



あらためて謝った方が良いのか、それとももう触れない方が良いのか…
まだ心は決まってなかったが、送っていくことを口実に二人っきりになりたかった。
そして、その時の雰囲気でどうするかを決めたかった。
それと、もう一つ、今朝みつけたおかしな名刺のことを彼女に相談したかった。



それはタクシーの名刺で、その裏に「野々村さんの言うことを信じろ。彼女の話はすべて真実だ。」と、書かれていたんだ。
何のことなのか、皆目わからない。
だが、その文字は間違いなく俺の書いた文字で、乱れている所を見ればおそらくはタクシーの中で書いたのだと思われる。
なのに、俺にはいつそんなことを書いたのか、まるで記憶がない。
酔っていたのかもしれないとも思ったが、最近は記憶がなくなるほど飲む事なんて一度もなかった。
だけど、その名刺は俺の上着のポケットに入っていて……
どこか薄気味の悪いものを感じて、俺はまだそのことを誰にも話してはいない。
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