夢のような恋だった


 
「じゃあね、お休み」

「……お休み」


不満そうな顔で私とお母さんの顔を見るのはお父さんだ。
お母さんが私と和室で寝るというのが不満らしい。

そのまま不貞腐れたようにベランダに行って煙草をふかし始めた。

辞める辞めると何度もいっていたけど、結局お父さんは煙草は辞めれなかったらしい。
白い煙が、お父さんのため息のように見える。

お母さんの方はそんなお父さんにはお構いなしで和室の扉をピシャリと閉めた。


「……いいの?」

「いいのよ。紗優を独り占めされて拗ねてるのよ。……でも私だって、今日は紗優ととことん話すって決めたの」


次にお母さんは仏壇に目を向ける。


「紗優。……二十四歳になったんだっけ」

「うん」

「私が優と出会った年と同じね。人生観が変わったなぁと思った頃だったわ」


お母さんは遠くを見るような目で仏壇の中の写真を眺め、やがて扉を閉めると口元に人差し指を当てて笑ってみせた。


「さ、話そうか。これはパパ……優にも内緒の話」

「女だけの秘密ってこと?」

「そう。彩治にも内緒にしてね。お母さん軽蔑されちゃうかも知れないから。……もしかしたら紗優もそう思うかも。……って考えると怖くなるからダメね」


急にお母さんの声のトーンが下がる。
私はお母さんの向かい側に座り、小さく首を振った。

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