可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
5 --- しない
(5)しない。
放課後。
今日は寄り道しないでマンションにまっすぐに帰ってきて、また制服のまま数学に取り掛かっていた。
「おいニカ」
けど折角好きな数学の問題集を広げてるのに、さっきからちっとも進んでない。
問題文を読み込もうとしても、解こうとしても、IOエラーしたパソコンみたいに脳みそがフリーズ状態だ。
-------------このぽんこつ、役立たず。
苛立ちがうまく収められなかった。
そんなあたしの姿を、ソファの、それもいつもあたしが座っている位置に腰を下ろした渚が、我が物顔でふんぞり返って眺めていた。
あたしが住処にしているこのマンションに、渚が来たことなんてこれがはじめてじゃないのに。
なんでこんなに気が散るんだろ。……すごいむしゃくしゃする。
「ニカつってんだろ。返事くらいしろよ」
渚はやっぱりどこか浮かれたような態度。
しかも教室にいるときとは違ってかなりあからさまだ。
「なあニカちゃん、聞いてる?」
気持ちを切り替えるため、呪文のように円周率を唱えようにも、すぐ傍で話しかけてくる声が耳障り過ぎて集中出来ない。
------------何こいつ。何このたのしそうな声。