あなたの手に包まれて
✳︎ 社長との日常




「み〜く〜ちゃんっ!今日さ、早めに仕事終わりにしてクイーンズホテルの鉄板焼きでも行かない〜?」

「早めに終われるわけないですよね?こちら、10:30からの新プロジェクト打ち合わせ用の資料です。こちら、14:00からの会議の資料です。こちらは16:30からの丸亀レストランフーズ社との打ち合わせ用資料です。」

「ん〜」



私は小林美紅〈コバヤシミク〉26歳。

都内のそれなりの私大仏文科を卒業し、ごくごく普通に試験を受けてこの業界大手・福本地所へ入社したのに、配属先はなぜか秘書課だった。

緊張しまくりの初出勤の朝が懐かしく思える勤続四年目。

嗚呼、あの日に戻りたい。

そして、秘書課以外に配属されるか、せめてもう少し真面目な人の秘書になりたい。

しかし現実はそう甘くない。

先ほどから猫撫で声で私の顔色を伺うこのチャラ男、もとい、社長の福本祐樹〈フクモトユウキ〉は28歳という若さで社長職を継いだジュニアで現在35歳。

私が12人目の秘書らしい。



「よしっと、会議も打ち合わせもサクサク終わらせよう!だから、美紅ちゃ〜ん!クイーンズホテルの鉄板焼き!ねっ!」

「はいはいはい、もしも、もしももしも丸亀レストランフーズ社さんとの打ち合わせ後、接待にならなかったら行きましょうね〜」

「うっ…美紅ちゃぁーん!接待に誘われないように会話の流れを上手いこと…「もっていけると良いですね。」…うっ…美紅ちゃぁーん!」

「さて、午前中のうちに昨日の残りに目を通してハンコ押してくださいね。それでは、今日も一日頑張りましょう。」

「美紅ちゃぁぁぁぁん……」



高層階からの展望をバックに不貞腐れた表情の社長様をほぼ無視して給湯室へ向かうとエスプレッソを淹れ、自宅から用意してきたフルーツをお皿に盛り付けてクロワッサンと共にトレーにセットする。

毎日朝食をとらずに出勤して来る社長の為に、いつの間にか定着した私の毎朝の業務である。


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