恋をしようよ、愛し合おうぜ!
26
車に私の引っ越しプチ荷物があるので、晩ごはんはどこかへ食べに行く、という選択肢は、最初から却下だった。
かといって、私たちは出前を頼みたいという気分でもなく。
どちらか、又は二人で料理をするというのは、元々選択肢になかった気がする。

というわけで、私たちはデパ地下へ出向くと、晩ごはんのお惣菜を物色した。
スーパーじゃなかったのは、一応今日が初めて二人で過ごす夜だから、ちょっとした記念と、贅沢を兼ねたというわけなんだけど・・・。

何を食べたいかが定まらないせいか、買うものがなかなか決まらなくて、私たちはウロウロと売り場をうろつき歩いている状態だ。
しかも、売り場のお姉さん方は野田さんに「これおいしいですよ」「こちらはどうでしょう」と勧めてくる。

そう、あくまでも野田氏だけに。

あぁ、食品売り場でもこの人はモテるのかと感心しながら、モテ男さんの少し後ろを歩いていたとき、「なつき」という低音ボイスが聞こえたのと同時に、野田さんが立ち止まって私の方をふり向いた。

「はい?」
「これどうだ」

と言ってる野田さんが手に持っているのは、ラザニアだった。

「おいしそ・・・」
「はいっ。こちらは一流レストラン“ロッシ”のシェフ、アレックス・ブルーニ氏がプロデュースをされたラザニアでして、オーブンに入れて焼くだけで、一流レストランの味がご家庭でも楽しめるようになっております」

・・・ちょっとお姉さん。
私が言い終える前に、長々と説明しないでくださいっ!
と、少々ムッとしたものの、確かにラザニアがおいしそうに見えるのは、おなかすいてるせいなのか。
でもアレックス・ブルーニって、テレビにも出ている人気のシェフだよね。

「いかがですか?」と言うお姉さんは、両目をキラキラさせて野田氏を仰ぎ見ているけど、お姉さんに見られている野田さんは、その視線も存在も完全無視して、「じゃ、これにするか」と私に言った。

「うん。でも野田さんち、オーブンあるの?」
「あ。ねえや」
「じゃあこれ食べれないよ」と私は言いながら、ついクスクス笑ってしまった。

そんな私を野田さんがじっと見ている。
と気づいたとき、野田さんは「すいません。これいらない」と言うと、お姉さんにラザニアを渡して、サッサと歩いて行ってしまった。

それが数秒の間に起きた出来事だったので、私には何があったのか咄嗟には分からなかった。

私は「ちょっと。野田さんっ!」と言いながら、慌てて野田さんを追いかけた。
私の声が聞こえたのか、野田さんの歩調は遅くなったけど、それでも止まることなくドンドン歩いて行く。

どうしよう。
さっき私が笑ったから、野田さん・・・怒ってる?

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