冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
愛が待っている






その後、紬さんの満足げな笑顔と「続きは今晩」という宣言とともにベッドを離れた私たちは、紬さんの運転する車で父さんのもとへと急いだ。

明日が結婚式だというのに、腰が痛くてたまらない。

そんな私を横目でちらりと見ながら口元を緩めている紬さんに、小さくため息をついた。

けれど、嬉しげに運転している横顔を見れば私だって嬉しい。

腰の痛みや体のあちこちに咲いている赤い華のことは言わずにいよう。




土曜日の朝は道路も空いていて、赤信号に捕まることもなく、車は病院へと向かう。

父さんの怪我は、両足の骨折と全身の打撲。

幸いなことに内臓の損傷はなく、事故の大きさに比べて退院の時期は早そうだと彩也子さんからメールが入っていた。

結局、彩也子さんは特別室に入院している父につきっきりで一晩を過ごし、今朝も早くから世話を焼いているようだ。

彩也子さんが父さんを愛しく思っているだろうことは、気付いていたけれど、いざ公になってみるとそのことをすんなり受け入れている自分にも気づき、嬉しくなる。

絵を描く以外、生活能力が欠如している父さんを愛することは大変だろうけれど、好きになってしまったのならどうしようもない。

どれだけ大変だとしても受け入れざるを得ない感情があると、私も紬さんを愛するようになって知った。



< 317 / 350 >

この作品をシェア

pagetop