キミには言えない秘密の残業
好きになってもいいですか
時計の針が4時半を指す。あたしはチラリと須永の方を見た。パソコンに釘付けであたしの視線になんて気づきもしない。

きっと頭の中の片隅にもあたしのことなんてない。いや、もしあるとしたら残業ばかり言い渡す鬼上司ってところかな。



「須永、今日また残業ね」



須永朔。あたしの直属の部下。二つ年下の彼は今年の期待のホープ。だからこそ残業をさせてでもどんどんと伸ばしていきたい。


でも、実はそこにあたしの私情が入っているなんて彼は気づきもしないだろうな。



「えーっ須永、またお昼それだけ?」

「いや、ちょっと金欠でさ」



須永はいつも金欠だと言ってお昼にはお弁当箱いっぱいにもやし炒めだけを詰めてそれをかき込んでいる。


その理由が彼の付き合っている彼女だということはうちの部署全員が知っている。



比較的チームワークのいいうちの部署は割と他の部署よりも飲みに行く回数が多い。そこに須永は来ない。それからは須永の話題が飲み会の中心になった。



「どうやら須永には彼女がいるんですけどそれがすごい女らしいですよ。とにかく俺らからしたらただの金づるとしか思えないのにあいつってば真剣で」


ある日の飲み会で須永と同期で友人の伊東からそんなことを聞かされた。


それまでは須永は本当に付き合いの悪い後輩としか思っていなかったのに数年前の自分と重なってみえたんだ。
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