課長が私に恋してる?
scene1:目、開いてますけど


前髪が揺れる。
夕暮れの陽射しに透けたそれは、目の前の男の寝顔をさらにあどけなくさせていた。



妙なところで会っちゃったな、と琴子はひとりため息をついた。



日曜日の夕方4時過ぎ。
電車の中は、平日の同じ時間とは比べようもないくらい穏やかなものだった。



ガタンゴトンと揺られる度に、隣の席の男の上体は琴子に傾き、柔らかな熱を肩越しに伝えてくる。



ほんのりと男の服からは日向の匂いがして、柔軟剤よりも優しい香りに図らずも胸がキュンとした。



いつもは経理課の鬼課長との異名を持つ如月課長も、ワックスも付けずに前髪が下りていると、元々童顔なことも手伝ってまるで少年のようだった。



(こうしてれば可愛いのに)



3歳年上の三十路目前男に対して思うことじゃないかもしれないが、いつもこき使われてる身としてはこれくらい心の中で呟かせて欲しいものである。


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