キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
諦めない
少しでもおなかが出ている妊婦さんを見ても、嫉妬したり、自己嫌悪に陥ることは、以前より少なくなった。
だけど、自分に女らしさが足りないとか、女として負けているという思いを、まだ引きずっている。
そんな思いが顔、特に目に出てるに違いない。
あぁ。今の私、すごく醜い・・・。

そんな私に追いうちをかけるように、女性同士の話し声が聞こえてきた。

「・・・そうなの。その気は全然なかったんだけど、3人目ができちゃってー」
「あらぁ、大変ね」
「ホント。やっとつわりが収まったところ。今回が一番ひどかった。もう高齢の域だし、産んでからが体力いるのにねぇ」

・・・やだ。こんな会話、聞きたくない!

俯いた私は、耳を塞ぐ代わりに、両目をギュッとつぶると、ブルブル震える両手を、こぶしに握った。
まるで苦行に耐え忍ぶように。

「・・・ひじり。ひーちゃん」
「えっ?あっ・・・」

私は今、野田さんと一緒にいるということを、一瞬忘れてしまっていた。

「どうした」と言う野田さんが、私に一歩近づいたと思ったら、ごつごつした大きな手が、私の手を包み込んだ。

「寒いのか?手が冷たいし、震えてんじゃねえか」と言った野田さんの手は、とても温くて・・・。

「ちょ、っと。のださ、ん。手。それに、近・・・」

つっかえながらどうにか私はそう答えると、今度は額が野田さんの厚い胸板にコツンと当たった。

「聖(ひじり)」
「・・・はっ、ぃ」
「俺を見て」
「いっ・・・」

や、やだ。こんなときに息が・・・。

「ひーちゃん。俺を見て、ゆっくり息して・・・」
「はぁっ・・・」
「そうだ・・・大丈夫。もう大丈夫だ」
「う・・・のださ・・・」
「何」
「・・・手、まだ・・・。もう離して」

野田さんに誘導してもらったおかげで、呼吸はすぐ元に戻ったと言うのに・・・。
私って本当に失礼なヤツだと自分で自分に呆れていたら、「バレたか」という野田さんの低い声が聞こえた。

少なくとも、野田さんの顔と声は、全然怒っていないことに、私はホッとした。
でも私、野田さんに嫌な思いをさせてる。
だからこの人とは関わらない方がいいって・・・。

完全な自己嫌悪に陥った私は、泣きそうになるのをこらえながら、「帰る」とつぶやいた。
そんな私のワガママに、野田さんはいやな顔一つせず、アッサリ「おう」と言うと、私の手を取って、ゆっくり歩き出した。

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