初恋lovers
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黄昏時、赤レンガ倉庫。

ドンと右手を付き、目の前の女に向かって苦しげに男が囁いた。

「……俺じゃ、ダメなのか?」
壁と男の間に挟まれた女が、本心とは裏腹な言葉を口にする。

途端に、男が女を抱き締めた……




「きゃー!恭ちゃんの壁ドン!!」
孫娘の舞が、薄型テレビに向かって叫ぶ。

娘夫婦が忘年会のため孫二人を預かり、久しぶりの賑やかな晩ご飯を終えたところだった。

恭ちゃんというのは、人気の若手俳優らしい。
彼が出演している番組は欠かさずチェックしている舞がテレビをつけ、期せずして4人でドラマを見ることになったのだが。

「私も壁ドンされたいなー」
高校生の舞が、うっとりと呟く。
「彼氏もいないくせに」
興奮する舞に、弟の慎が生意気な口をきいた。
ついこの間までお姉ちゃんお姉ちゃんと後をついていたのに、中学生になり反抗期を迎えたようだ。

「お子様にはわからないでしょ。女の子は、壁ドンされるときゅんってなっちゃうんだよ」
夢見る乙女は恍惚とした表情で、両手を胸の前で組んだ。
「なんだよ、きゅんって」
お子様扱いされた慎が唇を尖らせる。

「現実にする奴なんているわけないだろ。恋愛ドラマの見過ぎじゃねえの?」
斜に構えてバカにする慎を無視して、舞が私に話を振ってくる。

「おばあちゃんも、わかるでしょ?」
同意を求める孫娘のかわいい視線に、私は大きく頷いてみせた。

「えーなにそれ。おじいちゃんは壁ドンなんてしたことないよね?」
対抗心からか、慎が無邪気な質問を新聞を読みふける夫にぶつける。

「……当たり前だろ」

新聞に隠れ表情が見えないまま、不機嫌そうな低い声が返ってきた。

その答えに、私は密かに頬を緩める。


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