躊躇いと戸惑いの中で
様子見




    様子見




あれから、二次会だと張り切る河野に、私と乾君は散々つき合わされ、終電過ぎまで連れまわされた。
翌日は平日だから、河野も私も普段通りの出勤だとわかっているはずなのに、なかなか帰してくれなかった。
もちろん、タクシー代は、河野持ちだ。
乾君は大丈夫? と訊ねれば、明日は遅番だから多分大丈夫とのこと。
河野に散々飲まされている割には、思いのほか冷静で、それほど酔っている感じも見受けられなかった。
こざっぱりとしていて、少し子供っぽい顔をしているわりには、酒豪なのかもしれない。
顔と内臓は、比例しないらしい。
私の方が、よっぽどしんどいわ。

栄養ドリンクを朝から一気飲みして、仕事に向かう。
乾君くらいの時なら、どんなに飲んだって翌日にはしゃきっと元気にしていたものだけれど、さすがに三十歳にもなると体は正直だ。
無茶な飲みかたをすれば、てき面に現れる。

「ふぅ~」

アルコール臭だらけの息を吐き出し机に向かっていると、少しだけしんどそうな顔をした河野がやってきた。

「昨日は、お疲れ~」

そう声をかけてきた本人の方が私よりも元気で、愚痴の一つも言いたくなった。

「ホントだよ。うちらもう若くないんだからさぁ。ああいう飲み方したいなら、今度は他の人誘ってよね」
「マジ悪かったって。乾の返事が思いのほかよかったから、つい浮かれちまった。多分もうやらねぇよ」

河野は、本当に悪いと思っているようで、苦いコーヒー淹れてきてやるよ、と給湯室の方へ行ってしまった。
私は、アルコール臭が気になって、風邪でもないのにマスクをしておく。



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