鬼部長の優しい手
第一印象と現状維持~笠野黛実の場合~



山本 梓という男に出会ったのは、
今から五年前。


入社式が終わった後。
あいつは今と変わらない胡散臭い
爽やかな笑顔で話しかけてきた。


「笠野さん、だったよね?
さっきの自己紹介の時、俺と歳同じだって知ってさ、気になってたんだ。

…可愛いなって思って。」


…その時から気づいてた。
その言葉は女を口説くための、あいつ流のひとつの手法。



後にあいつは、困った顔をして、
“あの台詞で落ちなかったのは黛実ちゃん
だけだったよ。”
と言った。
これは私が生きてきたなかでも
一番と言っていいほど、腹が立った言葉。





…その時は、仕事以外で関わることもないだろうと思ってたのに、



「…人生って何が起こるわからないわね…」



第一印象最悪だったそいつは今、
私が入れたコーヒーを飲みながら、
私の家のお気に入りのソファーに座り、
くつろいでいる。

山本に告白されたあの日から、
仕事終わりにはいつも私の家に寄り、
くつろいでいくのが恒例になっている。




「どうしたの?さっきから、
じっと見つめて。

なになに、俺に見惚れちゃった?」

「はいはい、山本がかっこよすぎて、
見惚れてましたよー」




冗談のつもりで言ったその言葉にも、
山本は顔を赤くする。


そんな山本の反応が嬉しくてたまらない。
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