名前を教えてあげる。
17歳の冬⑴・逃避行
JRに1時間乗ったあと、私鉄に乗り換え、さらに30分ほど電車に揺られた。
そこは、美緒が住む横須賀とは違う
『大都会』の光景が広がっていた。
巨大オフィスビルや高層マンションが建ち並び、たくさんの飲食店、洋服屋、雑貨屋など様々な店が軒を連ねる。
「わあ、すごいね…」
美緒の口は、ついポカンと開いたままになってしまう。
「上ばかり見てたら、足元が危ねえって」
完全にお登りさんの美緒を、順は楽しそうに見ていた。
日中は、12月にしては暖かだったのに、陽が暮れてからぐっと気温が下がった。
美緒は赤い毛糸のマフラーをキュッと締め直す。
順も紺のチェックのマフラーで鼻から下を覆い隠すようにした。
〈園長先生、田中みどり先生へ〉
今まで散々、心配かけてしまったのに、こんな置き手紙をする美緒を許して下さい。
やっぱり、赤ちゃん産みます。
順くんと決めたことです。
卒業も就職も諦めます。
危ないことや悪いことは絶対にしないと誓いますから、連れ戻すとか考えないで下さい。
9年間、本当にお世話になりました。
このご恩は一生忘れません。
ありがとうございました。
五百部美緒