恋のはじまりは曖昧で
些細な出来事で

長いようで短かったGWも明け、少しずつだけど会社の雰囲気にも慣れてきた。

私、高瀬紗彩はこの春、大学を卒業し花山株式会社の営業部に配属され、営業事務をしている。
建設資材の販売から施工管理まで行っている会社だ。

生まれてから一度も染めていない真っ黒な髪。
肩まで伸びたその髪を邪魔にならないよう、いつも後ろでひとつに結んでいる。

取り柄は……特にないけど、強いて言うなら真面目なところだろうか。
要するに、至って平凡な新社会人だ。

お昼になり、昼ご飯を食べる為に社員食堂に来ていた。
社食の料理はリーズナブルだし、新入社員の私の強い味方だ。

「この会社の食堂のご飯美味しいよね」

そう言って、キノコのクリームパスタを食べるのは、総務の桜井薫。

薫は私の同期で、内定者の懇談会の時に同じグループにいた。
緊張し、人見知りを発揮していた私に気さくに話しかけてくれた。
そのお陰で私も緊張が解れ、終わってから連絡先を交換した。
情報交換をしたりと交流を深めていき、今ではいろんなことを相談できる仲になった。

薫は明るく誰とでも仲良くできるスキルを持っていて、噂話が大好きでミーハーなところもある。

「そうだね。私は八宝菜が好き。野菜たっぷりだし」

注文していた八宝菜に入っていたニンジンを口の中に放り込み、咀嚼する。
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