スケッチブックに描くもの
 うう、行きづらい。
 放課後のテニス部のテニスコート。コート前なんだけど入りづらい。あの噂話どこまで広まってるの?
 あー、でも、行かないと本当に涼会いたさっていうか目当てで行ってたって思われるし。あ、事実はそうなんだけど。そう見られるのは嫌だしな。
 そう、それに絵!! 昨日の絵やっぱりいい。今まで動きのある絵を描いてこなかったから、最初は戸惑っていたんだけどだんだんとサマになってきたんだよなあ。
 やっぱり行こう! ここでくじけたらダメだ私! それに涼がいるし。やっぱり涼に会いたい私。


 あ、ベンチの前にはネットがおいてあった。来てよかった。あれが不自然に片付けられてくのは嫌だな。
 当然のようにそこに座り帽子をかぶる。
 あ、それでか。佐々木部長にまだかかるか聞かれたのってあの噂話だったんだ。自分が予想の一位だったから余計に嫌だったんだ。

「よ、アリス。僕を描いてよ」

 通り過ぎざまに私に声をかけていく。
 う、自然にさらっとなんであんなにできるのよ。


「鏡野!早く描けよ。こっちは親善試合あるんだからな」
「はい。頑張ります」

 噂話どこまで広まってるのかわからないけど、今日の佐々木部長、勢いないな。もう怒り疲れた?


 試合に向けてレギュラーは本格的な練習になってる。他の部員は基礎トレーニングやランニング素振り球拾いなどコート使わない練習メニュー。厳しい世界だな。運動部って。運動には全く縁がなかった私には新鮮な世界。
 本番に向けた真剣な練習。いい感じに描ける。
 あ、ちなみにもう誤解を招きたくないので、涼ばかり描いてます。
 さすがは二、三年生蹴散らした涼、描いてて物足りなさは感じない。むしろあの迫力をどう描くのか悩んでいる。顧問が即許可した理由がわかった。難しい。


「集合!」

 佐々木部長の掛け声。今日は終わり。って、ここ先生来ないな。佐々木部長に一任されてるよね。あの先生……軽い返事をしてたもんなあ。

「ありがとう」

 いつものように一年生がネットを片付けてくれる。
 さあ、私も帰ろう。スケッチブックやらを片付けて立ち上がると涼が走ってきた。
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