これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
第三章 side 勇矢

①腕の中の彼女

「どうかしましたか?」

支払いを済ませて席に戻ると、二宮さんの困った表情が目に入る。
 

その場には先ほど席に案内してくれたフロアマネージャーと名札に書かれた男が立っていた。

「大変失礼いたしました。知人とよく似てらっしゃったので。私の間違いでした」

 丁寧に頭をさげて、去っていく。

 その様子をみていた二宮さんの顔は、席を立つ前と明らかに違う。

 視線をテーブルに落として、両手は膝の上でぎゅっと拳を作っていた。

 何かなければこの短い間にこんなふうになるとは考えにくい。

「二宮さん?」

 俺のかけた声に、ハッとした表情を浮かべこちらを見た。

「あの……何でもないんです。ちょっと食べすぎました」

 無理やり作っているとわかる笑顔だ。何かあってそうなったのだろうが、彼女は俺にその理由を話すつもりはないらしい。

 あまりにも俺が見つめすぎていたせいか、彼女は思いついたように話を始めた。

「あの……今日クロに会えますか?」

「今日?」

 腕時計を確認すると、すでに二十二時半だ。女性を部屋にいれるには遅すぎる時間だ。

 俺が腕時計を見ているのに気が付いて彼女が咄嗟に断ってきた。

「すみません。ダメですよね。急に。なんだかとても会いたくなってしまって。ご迷惑ですよね」

 いつもよりも早口で言い訳をすることで、その場を和ませようとしている。

 しかし俺は時間よりも彼女がそう言った理由が知りたかった。
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