砂糖漬け紳士の食べ方
《1》 サブヒロイン体質の私



『理想の恋愛』には『理想の王子様』がいて

だけど『理想の王子様』はいつだって『可愛い女の子』を選ぶ────





「はいはいはい、分かってますよそんなこと」


桜井アキは、むしりとローストチキンを歯で食いちぎりながら、誰ともなくぼやいた。

右手に、クリスマス仕様にラッピングされた冷めかけのローストチキン。


左手には、先日発売されたらしい女性雑誌の1ページ。

目の眩むようなピンクと赤が使われてるページの見出しは、
ずばり「クリスマスまでに可愛くなろう!」という、いかにも独身女性達を逆なでするかのようなキャッチであった。


彼女はその特集ページに嫌というほど眉をしかめ、食べ終わったチキンの骨をゴミ箱に投げ入れた。

そもそも、こんなファンシーでリリカルでキラキラフワフワな雑誌は彼女が購入したものではない。

隣の席の後輩が「私、今日彼氏とデートなんですぅ」と言い、わざとらしくアキの机に置いて行ったものだった。



クリスマスイブの今夜。

部署内は、今夜だけはずいぶんと早めに仕事を切り上げる社員がたくさんいたせいで、室内はガランとしていた。

仕事で追われる自分と、はたして「それ以外」の女性達はどんな聖夜にするのか気になりつつ、雑誌を捲った結果がこれ。



ただ眉をしかめただけだった。


思い切り口の中へ甘ったるいマシュマロをねじ込まれたような、微妙な敗北感だ。



「ちょっと桜井、晩飯食べ終わったら、こっちの作業手伝ってくれるか?」



二つ後ろの席から、編集長の山本が声をあげた。


「はい、今行きます」


彼女は慌てて雑誌を閉じ、丁寧に後輩の机へと戻した。

ふと窓の外へ視線をやると、いつの間にか雪が降りしきっていて、気づけば外は真っ白に塗りつぶされている。


こうも寒いと、やたら薄着で「デートだ」と張り切って飛び出していった後輩がなんとなく気になった。




編集長はえんじ色のネクタイを緩めたまま、アキへICレコーダーを手渡した。



「これ、文字に起こしてほしいんだけど。次の月刊のインタビュー原稿ね」

「分かりました」

「いやあ、しかし悪かったなぁ。クリスマスまでお前のこと使って。
何せ一番使いやすいっつうか…頼れるしさ」

「いえ、大丈夫ですよ編集長。好きで残っていますし」


今夜で果たして何度繰り返したのか、このやりとりののち、編集長はいたずらに笑って白髪混じりの髪をかきむしった。




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