Sweet Honey Baby
過去と誤解と。
 車でお邸につくと、あたしは西館、一也は東館。


 なんとなく気まずい感じで戻って来たことに、あたしとしては後味の悪さを感じていた。


 最後のアレがなかったら、わりと楽しかったと思う。


 ホテルに引っ張り込まれたんだって、場所が変わっただけでそんなに特別なことじゃなかった。


 それなのに、あたしったら何をいまさらそんなに気分を害するほどのことがあったのよ、って。


 でもだからって、わざわざあたしからこいつに歩み寄る意味がどこにあるというんだろう。


 初めて会った時みたいに無視しあっていればいい。


 互いに奇妙な同居人…もしかしたら将来結婚なんてことがあるのかもしれないけど、それまでは近いようで遠い、なんとなく許容できる程度の赤の他人。


 …そう思って、後ろを向いたのに、コートに入れた手に触れた袋がカサリと音を立てた。


 ん…もうっ!




 「…ちょっとっ」




 呼びかけても無視されたらもういいや、って思ってたのに、一也がすぐに立ち止まって振り向いた。


 憮然とした顔がフクれてるのに、あたしの次の言葉を待っている。 


 ああ、だからやなのよ、この男はっ。


 自分勝手で、気紛れなネコみたいな男かと思ったのはホンの最初の時だけで、まるで捨てられた犬っころ!


 なんなのよ、ありえない。


 やだやだ…。


 そう思うのに、昔からあたしは捨て犬や捨て猫が見捨てられなかったんだと内心、頭を抱えてしまった。


 …自分で飼えないのに構うべきじゃないって、ちゃんとわかってるのに。


 それでも、目先の哀れさに手を出しちゃう自分が懲りなすぎて頭が痛い。




 「これっ」
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