今度こそ、練愛
再会

一からやり直すって難しい。
これまでの仕事が長かったから、また最初から新しいことを始めるのは尚更に。



岩倉君に会った帰りに、本屋に寄って花の本を買った。バッグに入れて持ち歩くことができるように、小さくて写真が豊富な本。
店で実際の花を見ながら比較しよう。



翌朝、出勤すると既に岩倉君が来ていた。
高杉さんと一緒に仕入れてきた花の仕分けをしている。挨拶しても顔も上げずに空返事。



やっぱり私、嫌われているのだろうか。
第一印象は最悪だったけれど、これから巻き返そう。



と思いつつ着替えを済ませて、いつものように掃除道具を持って店の外へ。窓拭きのために脚立をセットして、いざ登ろうとしたところに岩倉君がやって来た。
つんと澄ました顔で、つかつかと速足で。
何故か彼の手にはワイパーが。



また何か言われるのかと身構えると、岩倉君は私の手から雑巾を奪い取って脚立に登りだす。何が起こっているのか訳がわからず、私はただ見守るだけ。



岩倉君はワイパーと雑巾を使って、窓を隅から隅まで綺麗に拭き上げていく。手際の良さに見惚れているうちに、すべての窓を拭き終えた岩倉君は、脚立を抱えて店内へ。
同様に窓を綺麗に拭き上げてしまった。



「あとは掃き掃除しといて」



雑巾は私に返却されることなく、岩倉君は再び高杉さんとともに仕分けを再開。
いったい何だったんだろう。

< 93 / 212 >

この作品をシェア

pagetop