麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
序章 麗雪の夜の出会い
麗雪。

しんしんと降り積もる、麗しの雪。

雪を見ると、泣きたくなる。

なぜだかは、わからないけれど。



月明かりにはらはらと銀の雪の舞う、静かな夜のことだった。

セレイアは、一人、家路を急いでいた。

彼女はこの神聖王国トリステアで、“姫巫女”の職を授かっている。

それは神殿の頂点とも呼ぶべき職。

祈祷や神事、祝福、予言など、彼女の仕事は多岐にわたる。任されている仕事の責任は、18歳を迎えたばかりのその華奢な体にあまりに重い。ゆえに彼女の帰宅はいつも遅くなりがちだった。むろん、年中雪に閉ざされるこの国の夜が、早く訪れるからでもあるが。

家路、といっても、そう長い距離ではない。

彼女の勤め先たる“白銀の神殿”よりほんの十分程度、神木“トリステアの樹”にほど近い広大な一等地に、彼女は立派な屋敷を賜っていた。それはすなわち彼女の社会的地位の高さを表している。

聖職者たちの邸宅が並ぶこの一帯は、降り積もる雪の音が聞こえそうなほどに、人の気配もなく静まり返っている。
これほど静かな夜道に危険がないのは、トリステアが王家と神殿のふたつの柱によって数百年もの昔から支えられ、平らかに治まっているからだ。

「今日も寒いなあ」

セレイアはそう白い息と共に呟き、かじかんだ手をこすりあわせた。

セレイアは雪が好きだ。

特に今夜のような、月明かりに照らされた麗しの雪―麗雪の美しさは、いつまで眺めていても見飽きない。
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