オウリアンダ
第二章 悪友アキラ

同僚のアキラ

「…と、まあこんな事が昨日あったんだ。」
 バイトが終わり、俺は昨日起こった事を同僚のアキラに話していた。
 アキラとマコは全く関わりが無いし、マコの不思議な力の話をしても全く問題無いだろうが、その部分は話さなかった。
 つまりアキラには凄くかわいい女の子に助けられたとしか話していない。
「世の中にそんなにウマい話があるのか!?いや、違うな。俺が一番信じられないのは、一緒に寝ていて全く手を出さなかったことだ。一人暮らしの女のベッドは狭いだろ?腕枕するしかないだろ?そしたら自然に体がくっつくだろ?後はヤるだけだよな?普通。」
 何故こいつの言う事はこうも極端なのか。
「いや、あのベッドはおそらくキングサイズだ。もしかしたら3人で寝ても体はくっつかないかもしれない。」
 俺がそう言うと、アキラは何故かとても悔しそうな顔をした。
「巨乳の!かわいい女の子と!高級なベッドで!一緒に寝る!変わって欲しかった!!羨ましい!!」
 素直な奴だ。こうも素直に羨ましがられると自慢のしがいがある。
 アキラはさっき紹介したように、俺と同じパチンコ店の夜勤で働いている。身長は俺より少し低いが、体は筋肉質でかなりデカい。
 ひねくれていて、仲の良い同僚もかなり少ない俺にとって、唯一の心を許せる同僚と言ってもいいほどだ。
 アキラの方がバイト先では少し先輩だが、同い年の19歳と云う事もあり、タメ口で喋っていたので、感覚的には同僚というよりかは友達だった。
 アキラには離婚歴がある。女癖の悪さが災いして、わずか三ヶ月のスピード離婚だったそうだ。勿論俺も女は好きではあるが、生活のために女をダシにしていたのがメインの俺とは違い、アキラは純粋に大の女好きだった。
「俺、もう金ないわ。給料日まで後少しだけどキツイな。」
 アキラは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「じゃ今日は俺が奢るから、どっかに食べに行こうぜ。」
 そう。今の俺には金があるのだ!!
 貧乏なハズの俺に何故金があるのかと言うと、理由は勿論マコだ。
 昼間マコの家から出る時、タクシー代だと言って2万円をマコに渡された。
 マコの家から俺の家までタクシー代では2000円ほど。『さすがに多すぎる』と一度は断ったものの、マコのあまりの押しの強さと金の誘惑に負けた。
 『返さなくていい。』と言ってはいたが、絶対に返すつもりだ。その為に連絡先も訊いた。
 後3日でパチンコ店で働き始めて、最初の給料日だ。その給料でマコに借りた2万円は返そうと考えていた。
「マジで!じゃあ遠慮なく。」
 アキラは凄く嬉しそうだ。よく考えるとこいつは本当に遠慮しなさそうだな。
 なぁに恐れることはない、俺にはなんせタクシー代の残りの18000円の大金がある。
「焼肉だ!焼肉に行くぞ!」
 勇ましく俺は言い放った。アキラもかなり乗り気だ。
 既に私服に着替えていた俺達は、そそくさとパチンコ店を後にした。
 俺達の住む地域はバー、風俗店、クラブ、スナックも多く、繁華街と歓楽街を程よく混ぜ合わせた感じの街だ。
 0時を過ぎた今の時間帯でも、開いている焼肉店を探すのに苦労はしなかった。
 こんな時間でも行き交う人は多く、人が多い場所が苦手な俺を困らせた。
 アキラは見た目も迫力がある。どちらかと言えば控えめな性格の俺は、アキラを見て、人が道を開けていく状況がなんとなく申し訳なかった。
「ここだ。このビルの6階に肉がある。」
 しかし、この男は人が道を開けていることなど、全く気にしていない。その上アキラが焼肉店の事を『肉』と言ったのを、俺は聞き逃さなかった。こいつにはもう肉しか見えていない。
 俺達はエレベーターが来るのを待っていたが、空腹の為、妙にエレベーターが来るのが遅く感じた。
 早く肉!肉!人の事は言えない。俺の頭の中も肉でいっぱいだ。
 6階につくと店内からエレベーターホールまで、良い香りが立ち込めていた。
 焼肉店はエレベーターを出て右側にあった。赤色ののれんが見える。店内に入る前に前に、俺はある言葉を用意していた。
 先に俺がのれんをくぐる。
「2名です!タバコ吸う!」
 俺は店員に訊かれるよりも速く人数を言った。念のためタバコを吸うか否かも。 肉が俺達を呼んでいる。たとえ1秒たりとも無駄にしない。
 店員に案内されるがまま、俺達は個室に入った。
「食べ放題と通常のコース、どちらになさいますか?」
 しまった。この質問の答えを俺は用意していなかった。
 正面にいるアキラの目を見る。奴の目は獲物を追う野獣のそれであった。これは食べ放題じゃないと危険だ。
「食べ放題で!」
「通…」
 危ない所だ。ほぼ同時に口を開いたが、俺の方が若干速かった。
 俺はアキラに向かってニヤリと笑った。
「お前贅沢なんだよ。なんで俺の奢りなのにお前がコースを選ぶんだよ。」
 俺は冗談ぽく怒って見せた。
「悪い悪い。つい誘惑に負けた。」
 アキラが本気を出せば18000円分の肉なんて、スグに平らげてしまいそうだ。
「駄目だ我慢できない。早く食おう!」
 俺達は最初に食べ放題のメニューをサイドメニュー以外全て頼んだ。つまり肉を全種類頼んだのだ。
 それからの俺達の勢いはすごかった。
 美味い!例え食べ放題の肉でも、他人の金で食う肉は美味い!…いかんいかん。この金はちゃんと返すのだ。
 俺達は一心不乱に肉を貪り、酒を浴びるように飲んだ。ちなみに酒は別料金である。

 その後、肉をひと通り食べ終えた俺達はデザートを食べていた。
 アキラが話を切り出したのは突然だった。
「タカノリ。これ何かわかるか?」
 そう言ってアキラがポケットから出したのは大麻だった。パケと言われる小さなビニール袋にそれは入っていた。
「ガンジャだろ?なんでお前が?」
 アキラが大麻を出して来たことにはビックリしたが、大麻自体は過去にも吸っている友人がいたので驚きは少なかった。
「なんだよ。あんまり驚かねーな。さては吸ったことあるな。
 これは、この前バーで仲良くなったヤクザに、紹介してもらったプッシャー(売人)から買ったんだよ。グラム2000円だぜ。」
 吸ったことはない。それにグラム2000円と言われてもさすがにドラッグの相場までは知らない。
「いや吸ったことは無い。お前って見た目通りの悪人だな。」
 苦笑いしながら俺は言った。
「まあそう言うなよ。肉も奢ってもらった事だし。お礼にお前にも分けてやるよ。今から俺の家に来いよ。」
 むむむ…。興味が無いと言えば嘘になる。それに他のドラッグに比べ、事故が少なく安全だともよく聞く。
 高校の時受けたドラッグの授業、友人の話、テレビでのニュース、その全てが俺の興味を掻き立てた。
「よーし!アキラの家に行こう!」
 若干ビビってはいたが、酒のせいで俺は気がデカくなっていた。
「あ、そうそう言い忘れてた。俺のニックネームはTAAKA(ターカ)だ。昨日からな。」
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