片道キップを二人分

もう、戻れないけれど・・・

「おい」

突如背中で声が聞こえてあたしは飛び上がりそうになって、辛うじて文句の言葉を飲み込みながら振り向いた。
勿論そこには、見たこともないくらい不機嫌な顔をした斗真がいた。




少しだけ怖くて、それなのに、その不機嫌さを嬉しいと思って。
どんな顔をしていいのか分からないあたしは、斗真の視線を逃れるように目を伏せた。




「いつまでフラフラしてんだよっ！」
「斗……ちょっと…」

突然、怒鳴るように言われて手首を掴まれて。
その驚くほどの力に引かれるまま、ズンズンと斗真は歩いて行く。



「痛いよ、斗真！」

小走りで後を追いながら、玄関を入って身体を押されるようにして手が離されて。
斗真が背後で玄関の鍵を掛けた音が、あたしから文句の言葉を奪っていった。