マネー・ドール
罪滅ぼし
 午前一時。夜中に無理矢理なテンションの通販番組が始まった。俺達は、ただテレビに向かい、ただソファに並んで座っている。

 隣に座る妻は、俯いて、黙っている。
何を、考えてるんだろう。ああ、そうか。これからの、金、か。そうだよな。お前の考えることといえば、それだけだよな。
俺は黙ったままの妻の横顔に、横顔のまま、言った。
「慰謝料は、払うから。これからの生活費も援助する」
よかったな、真純。これでお前も、満足だろ? あの男と、仲良く暮らせよ。あの男……ああ、あいつか。田山か。そうか……こんな日がいつか来るって、なんとなく思ってたよ。そうか……そうだよな……俺なんか、俺の価値なんか……金だけだもんな……
 やっぱり妻は黙っていて、俺ももう、何も言うことがなくて、もう……最後なんだな……
俺は黙って立ち上がり、ドアへ向かった。
「お前がここに住めばいいよ。俺の荷物は、そのうち業者に取りに来させる」
長かった……やっと……俺は、あの寝室から出て行ける。やっと……
「ここを、出て行くの?」
「明日から、ホテルに泊まる。」
このドアを出たら、もう終われる。この生活も、もう、終わりだ。
俺はドアに手をかけた。ドアを開けると、廊下の冷気が流れこんだ。
じゃあな、真純。……幸せにな……この二十年、本当に……悪かったな……
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