追憶のエデン
Episode8
真っ黒な雲が覆われた空を、闇を纏うかのようなルキフェルの翼が夜を切り裂く様に駆け抜ける。
ルキフェルの体温を感じながら、ぼんやりと早送りの様に遠のいでいくルストリアの街の明かりを眺めていた。


刹那の飛行――。そんな言葉がぴったりなくらい、あっという間に結界を抜け、目下にあの森が広がれば、飛行速度は更に速くなり、あたしを抱きかかえるルキフェルの腕に力が入る。


空気の抵抗と、顔に掛かる風に目を開ける事が出来ず、思い切り目を閉じていれば、コツリと地面に靴が鳴る音が小さく聞こえ、そしてすぐさま、ドアの開かれる音が聞こえた。


しかしゆっくりと瞼を持ち上げかけた時だった。



――バシャンッ!!



身体を支えていた腕はなくなり、湯の張られたバスタブへと大きな音を立て投げ込まれ、思い切りお風呂のお湯を飲んでしまいゴホゴホと咳込む。しかし呼吸が落ち着いてもいないのに、今度はキュッという音と共に頭からシャワーを勢いよく掛けられた。


「ひゃぁっ!ちょっ…!何、すっ……!止ッ…めて!!」


両腕を額の前で軽くクロスさせ、そうルキフェルに叫ぶ様に伝えるけど、ルキフェルからの返答も止める気配も一切なく、髪と衣服がどんどん重みを増していった。



俯き耐えていると、バシャンとお湯が勢いよく跳ね、見上げようとするのと同時にバスタブの中へと入ってきたルキフェルによって、シャワーが取り付けられている壁へと追い詰められ、深く口付けられる。


「ふぅ…んっ……」


指で唇を無理矢理開かせられれば、ルキフェルの舌がぬるりと入り込み、逃げるあたしの舌を吸い上げ、かと思えば上顎をねっとりと舌で舐め上げる。角度を変え、どんどん上がる呼吸すらも無視して、何度も深く口付けられる。


「――ッ……放してっ!!」


そんなルキフェルが怖くなり思い切り、両腕をルキフェルの胸に当て突っぱねる。
しかし抵抗は空しく、素早く伸びたルキフェルの指に顎を固定され、舌を捩じ込まれれば、お互いの唾液の混ぜ合う音と、鼻に掛かる吐息が漏れ始めた。
< 66 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop