もしも私がーcasket in cremtion。
プロローグ

 ざわめきが、行きかう街の中、一人の少年はやぶからに、頭の後ろで手を組んだ。

「あ~あ!!いくら僕達があの時、直前で圭子ちゃん逃がしちゃったって言っても、もう半年だよ、半年~!いいかげん飽きたよ!」

 靱だ。
 靱は金髪だった髪が、茶髪になっている。
 
 そんな彼の元に、長身でサングラスをかけた青年、永璃がハンバーガーの包みを丸めながらやって来た。
 永璃は髪に赤いメッシュが入っている。

「つか、半年前だけじゃねえしな。俺らが嬢ちゃん捕まえらんなかったの」

「そ~なんだよねぇ!半年前は、僕らが部屋に行ったらもう屋根づたいに逃げちゃってて、それから……えっと、3回くらいだっけ?」

「4回じゃなかったっけか?」

 その問答に答える声が、彼らの後ろからやって来た。

「5回だ!正確には4,5回!」

 振返ると、美青年が立っていた。
 幟呉だ。幟呉は、和服姿で腰に木刀が入っているような布袋をかけていた。
 相変わらず髪は長く、後ろに一本に結わいてある。
 
「幟呉(しぐれ)、そっちに居た?」

「いや、居ない。」

 靱は「そ。」とそっけなく答えると何事もなかったように話を続けた。

「でもさぁ、そんだけ会っといて何で逃がしちゃうんかねぇ。」

「さあな。」

 どうでも良さそうに永璃は答えた。
 そんなやる気のない二人を見て、幟呉は

「いい加減にしろ。任務中だぞ。死にたいのか?」と静かに憤怒して、呆れたように続けた。

「大体お前らがそんなだから逃げられるんだろうが。」

 その言葉にカチンと来た靱はムキになって言い返した。

「しょうがないだろ!圭子ちゃんすぐ変身して逃げちゃうんだから!大体街に何かいるわけないだろ、逃亡してんだからさ!大体ボクって、元々追うタイプじゃないから、やる気失せるんだよね。」

 憤慨して地べたに座り込む靱に、永璃は小さく呟く。

「つまりはモテルって言いたいわけね。」

 聞き漏らさず聞いていた靱は「あったりまじゃ~ん!」と胸を張りながら立ち上がった。
 そんな彼らに幟呉は

「モテるだのモテないだの、どうだって良い!そんな事言ってる暇があるならさっさと探せ。残された時間はないんだぞ」と呆れた。

「ハイハイ。」と仕方無しに靱は小さく返事をしてから

(本当は見つからなきゃ良いって思ってるくせに。)と心の中でぼやいた。

 そんな靱を見て、幟呉は冷ややかに声をかける。

「靭、分かっているよな?我々に残された時間はないし、我々の目的は〝立花 圭子〟を捕まえる事ではなく――」
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