キスはワインセラーに隠れて
17.最大のピンチ


それから数日後の、閉店を済ませた深夜のレストランの倉庫。


「――本田。カトラリーバスケット、新品は八個だ」

「オッケー。じゃあ最後は、テーブルクロス(青)だ」


バインダーに挟んだ紙を見ながら、倉庫の棚と棚の間に立つ本田が言った。

私はというと、自分の身長くらいの高さがある脚立の上にまたがり、目的の品をキョロキョロと探す。

今、私たちは、オーナーに頼まれて備品の棚卸をしている最中。

これが終われば帰っていいと言われているので、私たち二人とも、私語も少なく淡々と棚卸を進めていた。


「テーブルクロス、青……あ、あれかな」


一旦脚立から降り、少し離れた場所にある棚の前にそれを移動し、また一番上までのぼってテーブルクロスの数を確認する。


「新品……四枚かな」

「四枚な。……よし! これで終了!」


パン、とバインダーを叩いてうーんと伸びをする本田。

私は脚立の上に座ったまま、彼に話しかける。


「……でもさ。月末でもないのになんで棚卸するんだろ?」

「ああ、それな。……今、従業員の間でちょっと噂になってることがあるんだけどさ」


……噂? 首を傾げる私に、本田が難しい顔をして言った。


「……ウチの店、本当は売上げ悪いんじゃないかって」

「売上げが悪い? ……だって、いつもミーティングの時、オーナーはむしろ好調みたいなこと言ってない?」


そう言う時のオーナーは、ちゃんと具体的な数字も挙げてるし、私はそれを鵜呑みにしてたんだけど……


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