あなたと恋の始め方①
第一章

毎日の中で

 時間の流れというのは自分が思っていたよりも速く。驚くほど季節が流れていく。研究所での細かな研究に時間を割いていると時間はいくらあっても足りないのが現状だった。積み重なっていくデータは徐々にしか前に進まない。でも、前に進むだけいいのかもしれないと自分を慰める。


 忙しさに紛れていたというのは言い訳かもしれないけど、季節の移り変わりを楽しむ間もなく時間は過ぎ、暑かった夏もアッサリと秋の涼しげな空気に色を変える。あの新緑もいつの間にか衣を替えたように紅色に染めていた。


 静岡の研究所は相変わらずの時間の流れで流れる季節の中で時間が止まっているように感じるのだった。最初は本社一課の目まぐるしい時間の中で過ごしていたから、静岡研究所の流れに戸惑いはしたものの、元々が研究所に住んでいるような私だったから、少しの時間で研究所に慣れてしまっていた。


 私の主にしている研究は新製品の素材の改良で前回の発表したものの改良版。何をどうしたらそのような改良品が作れるのか頭の中で考えてもグルグルと回ってしまう。だから、とりあえず色々な素材を絡めて少しでもいい結果を出していこうとしている。


 簡単にいかないのは分かっているのに、思ったとおりの成果が出ないので足踏みをしていた。地道な努力というのが大事だと思うけど、地道なことは厳しい。


 息抜きのコーヒーを飲みながら溜め息を吐くと、一緒に働いている中垣先輩がデータを打ち込んでいたパソコンから目を上げた。


「俺にもコーヒーをくれ」

「はい」

< 1 / 403 >

この作品をシェア

pagetop