さよならさえ、嘘だというのなら
長い話

血まみれの俺達を見ても
凪子は何も言わず
ただ双子の兄である須田海斗の横に座り
細い指で須田海斗の頬に付いた血を払う。

いつの日か
こんな別れが来る予感があったのだろうか

凪子は深いため息をして
須田海斗をジッと見ていた。

俺達は須田海斗を取り囲み
しばらく座っていると
遠くの方から車のライトが見えて来て、ド派手なジャガーが俺達の目の前に停まり、智和おじさんが現れた。

おじさんはまっすぐ倒れている須田海斗の身体を触り、瞳孔と呼吸と心音を確認し

須田海斗の首筋に自分の唇を重ね、俺達を驚かせた。

「まだ間に合うな」
智和おじさんは冷静に言い放ち
スマホをポケットから取り出し丁寧に言葉を選びながら頭を下げる。

「急で申し訳ありません。仕事が入りました。はい……ええ、ドロン山の入口です。場所的には最高でした。お休みでしたでしょうか。本当に申し訳ありません。まだ息は少しあるので最適です」

まだ息はある?

須田海斗は生きている?

俺達は目を開かせ
互いに青ざめた顔で顔を見合わせるけど

「すぐ迎えにまいりますので。ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

いったい誰に電話をしているのだろう
こんな言葉づかいをして
顔も見えない相手にペコペコ頭を下げる智和おじさんは初めて見る。

てか
須田海斗は生きている。
でも
智和おじさんは、須田海斗の顔も見ず医者なのに応急処置をする気もなく七瀬の方に歩き出し

素早く後ろに回って七瀬のうなじの部分を強く叩くと、七瀬は身体を崩し智和おじさんの腕の中で気を失った。



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