LOZELO


5.心の扉に手をかけて


本当は病室で横になっているのが江口先生の希望らしかったけど、看護師さんに気を遣ってもらって、短時間なら病棟の談話室に滞在することを許された。

体を冷やさないように、と江口先生からの伝言を受け取って、パーカーを一枚羽織った。

無言のまま、長い廊下を莉乃と二人並んで歩く。

私が引く点滴のスタンドが、莉乃との距離を保つみたいに間にある。

花柄のワンピースが横目に揺れる中、なんと声をかけたらいいんだろうと考えたいのに、動揺がそれを妨げる。

"おともだち"にしては変だと思ったのだろう優奈ちゃんが、心配そうに見つめていたけれど、作り笑顔で病室を出た。

談話室は、暖房が効いて暑いくらいの空間だった。

お互いに静かに椅子に腰掛けて、しばしの沈黙。

凍った空気を切ったのは、莉乃の大きなため息だった。


「どういうこと?」


主語がないから、いろいろ考えた。

入院前、冷たい態度をとったこと。

莉乃が慕っている顧問に、逆らったこと。

病院に来てまで、何を私にぶつけたいんだろう。

莉乃がここまで苛立つ姿を見るのは1年ちょっと付き合ってきて初めてだ。


「ねぇ、紗菜にとって私って、どーでもよかったの?」


予想外の言葉に、頭の中が慌ただしく回転する。

否定しなきゃと思うけれど、もっと伝えるべきことがある気がして。


「学校来ないと思ったら、先生から入院したって聞いて、紗菜からはなんの連絡もないし」


どうでもいいと思われていると思っていたのは、私だけだったはずだ。


「友達んちにわざわざ行って入院してる病院聞くって、今時の高校生としてマジありえないでしょ。しかも、いっつも一緒にいる、親友だと思ってた紗菜んちに」


莉乃のことを完全に信じてはいなかった。

それは日常から自覚していたこと。

私なんかとつるんでも、何の利点もない。

それなのに私を友達として隣にいる存在に選ぶ理由なんて、予想もできなかった。

それを立証するような浅野の言葉で、私は莉乃を信じられない理由を提示された気がして、妙に納得したのだ。

"莉乃は私をきっと迷惑だと思っている"が事実に変わったから。


「私って、紗菜の何?」


体調が悪い時にこんなこと聞く私も私だけど。と、莉乃は冷たく言い放つ。

気を遣わせてしまっていることも申し訳ない。

ずきり。痛んだのは心。
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