不機嫌な君
4.不機嫌な君、病む・・・
…ひとみが、自分から離れていくとは思いもしていなかった。ずっと、俺だけを好きで、ずっと傍にいてくれるものだと思っていた。

仕事をしていても、集中できない。…今までこんな事はなかったのに。仕事中に、視界に入るひとみの姿が、俺の心を乱していく。

…俺はこんなにも、ひとみを求めているのに…お前は、いとも簡単に、俺を忘れられるのか?ひとみは、いつもと変わらず、仕事をこなしている。時々見せる笑顔が、俺の心を更に乱していった。

・・・その笑顔さえも、もう、俺には向けてくれないのか?

・・・そんな複雑な想いのせいで、仕事が捗らず、一日の業務を終わらせたのは9時になろうとしているところだった。

「…どうした、こんな時間までお前が会社にいるのなんて珍しいな」
営業の仕事はこんな時間までの仕事なんてざらなのはわかっている。

「…圭介こそ、こんな時間まで仕事か?…とろいな」
と、つい毒を吐いてしまう。

それでも圭介はハハッと笑うだけ。・・・コイツに毒は通用しない。…いや、毒にすっかり慣らされている。コイツといるのが、楽なのは大学の頃からそうだった。

爽やかなくせに天然で、真っ直ぐで、腹黒い俺の事なんて、何とも思っていないようで。むしろ、コイツはオレの事を自分の手の上で転がしている位の事なんだろう。でも、それが俺にとっては楽だったりする。

他の奴らは、俺が吐く毒におののいて、絶対近寄らないからな。

「…ところで、そんな浮かない顔してると、周りは更に近寄らなくなるぞ」
真顔で痛いところを突かれ、俺は思わず眉間にしわを寄せた。

「・・・なんかあったのか?」
「・・・別に、何も」
会社を出ながらそう呟いた。…そんな俺に、圭介は相変わらずついてくる。

「…おい、どこまでついてくる気だよ?」
ピタリと足を止めて、圭介を見た。

「…ぇ?もちろん、お前んちまで」
「・・・は?」
そう言ってニコッと爽やかな笑顔を見せる圭介に、ポカンとする。

「…バカ言え、お前はさっさと家に帰れ。…葉月さんが待ってるだろ」
「・・・いや」

「・・・なんで?」
「今日は、友達んちに泊まるって連絡来たから、今夜のオレは自由人なの。お前の事も気になるし、久しぶりにお前んちに行こうかなあと」

…悪びれもなく言っているが、ただ単に、葉月が家にいないから暇なんだろ?
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