ハートブレイカー
18
「おまえと直哉はいい服ばかり持ってるな」
「前、服飾メーカーで仕事してたから」

リューチ社は、規模は中堅だけど、割と人気のある服を作っている。
それで今までサンプルセールで、デザインと質の良い服を、非常に安く手に入れたり、試作品など、販売までは至らなかった服をタダでもらっていた。
だからお金はなかったけど、着るものに困ったことは、幸い一度もない。

それに、そういう業界は意外と働くお母さんが多いのか、社内に託児所があって、直哉をそこに預けることができた。
その分給料からしっかり引かれていたけど、このシステムに何度助けられたことか。

「“リューチ”か。それでおまえは布の種類や服の手入れに詳しくなったんだな」
「あぁ、まあ・・・」

おんぼろアパートからここに移ってくるとき、彼が運んでくれた荷物の中にノートがあった。
「仕事」「服」「色」など書かれたノートの見出しを、彼は見たらしい。
でもそこから内容までドンピシャに当てるなんて。

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