ご近所さん的恋事情
再び焼き鳥屋にて
「あれ?先週、この店の前をうろうろしていたお姉さんだよね?」


渉と瑠璃子が並んで、カウンターに座ると一番端に一人で座っていた50代の男性が瑠璃子の顔を覗き込んできた。見覚えがあるらしい。


「木村さん、瑠璃子ちゃんを知ってるの?」


店長が男性を木村と呼んだ。木村もこの店の常連客で、渉は何度か顔を合わせたことがある。


「この前さ、入りたそうにうろうろしていたから、声を掛けようとしたんだけど、俺の顔を見るなり逃げちゃってさ」


「あはは。それは木村さんの顔が怖いからでしょ?ね、瑠璃子さん。でも、入ったらよかったのに。こんな顔でもいい人だよ」


渉と瑠璃子は、渡されたおしぼりで手を拭いていた。瑠璃子は、くるくると丸めて、ばつが悪そうな表情をした。誰にも気付かれずにその場を離れたつもりだというのに、暴露されるなんて。


「いえ、あの、怖かったからじゃなくて、渉くんがいるかどうか知りたかっただけで」
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