聴かせて、天辺の青
(9) ここにある現実

◇ 今と向き合うこと


闇を掻き消すように、空の端から白い光が広がっていく。白い光に満たされた空に、少しずつ真新しい青色が滲んで透明感を増していく。



清々しい朝の空気を感じながらペダルを漕ぐ私は、鼻歌が出てしまいそうに。滑らかに水面を流れていく木の葉のように自転車を走らせる。私の前を走るのは海棠さん。
通り慣れた道が、いつもよりもなだらかで走りやすく感じられる。



「おはよう、昨日はゆっくりできたのか?」



事務所に入ると海斗の柔らかな声。まるで昨日の私たちを見透かすような笑顔で、私へと歩み寄ってくる。



「ありがとう、おかげさまでのびのびとさせてもらったよ」

「そうか、よかった。たまには日常を離れて思いきり羽を伸ばさないと……」

「そうだよ、休みたい時はちゃんと言ってよね、遠慮は無用だよ」



海斗の声を妨げて、ふいに飛び込んだのは河村さん。
まさか居ると思わなかったから、肩が揺れるほど大げさに驚いてしまった。



上手く息を潜めて、存在感を消していたらしい。
机上のパソコンのモニターの陰から顔を覗かせた河村さんも、海斗に負けないほど意味深な笑みを浮かべてる。



「河村さん、お土産です。皆さんで食べてください」



海棠さんは河村さんの存在に気づいていたのか、全く動じる様子はない。余裕の笑みを見せながら、お土産の紙袋を河村さんに渡した。





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