螺旋上の赤
終章  エピローグ
終章  エピローグ



「ほら、はやく!花奈が待ってるんだからぁ!」

「ごめん、ごめん。
 あの教授、時間守らないんだよ。
 鐘が鳴っても、自分の話したいところまでキッチリ話しやがるんだ。」

「時間守ってないのは、有だって同じでしょ!」

偉そうに私が小言を言う。

「だから、時間通りに教授が終わらせないからだって言ってるだろ。
 ——悪かったよ。」

機嫌悪そうに有が呟く。

待ち合わせの自転車小屋で、待ち合わせ早々に口論。

「全く、この歳になっても約束の時間を守れないなんて。
 社会に出たら大変だぞう?
 ——とりあえず行かなきゃ!またまたまた花奈を待たせちゃうよ。」

「そうだな。ほら凛、後ろ乗れよ。」

「うん、特急でお願いしますっ!」

「おうよ、任せとけ〜。」

二人乗りの自転車は、舗装された道を軽快に進んでいく。

「——今日は良い気分。天気も良いし。
 天気が良いと見慣れた景色もまた違って見えるな〜。」

あの時、アレックスを落とした橋の頂上まできた。
二人乗りで見る景色は、一人で見る景色とは違って随分遠くまで見えた。

登り坂を二人乗りで登ってきた有は、息も絶え絶え。

「はぁはぁ……そぉかよ。
 はぁはぁ……。」

「ねぇ、私の話聞いてる〜?」

「聞いてるよ……。」

声にならない声で有が返事をする。

「いつもと違う景色って、どんなだ?」

「ん〜、そうだね……。幸せが見えますっ!」

「ははっ、なんだそりゃ。」

それどころじゃない、有が呆れた様に言う。

「さて、ここからは下るからしっかり掴まれよ!いくぞ〜!」


二人を乗せた自転車は地面に敷き詰められた落ち葉を巻き上げながら、スピードを上げていく。

私は有の肩を強く抱き締めた。


花奈との待ち合わせのレストランが見えた。
待ち合わせの時間からは十分程度の時が過ぎていた。
時間を守れないのは社会に出たら大変だって?
往々にして仕方ない場合もあるんじゃないかな。


「花奈ぁ〜!相変わらず待たせてごめ〜ん!」


人の人生は楓が舞い落ちる際に描く螺旋に、似ているのかもしれない。

人生の終わりに向かって、落ちながら色々な出会いと別れを繰り返していく。
時には重なり合い、時には離れ、また重なり合う。

私たちは重なり合い、私たちだけの色になった。
それはきっと、秋の夕暮れよりも鮮やかで、これからも美しい螺旋を描くことだろう。

落ちて枯れる、その時まで……。
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