月だけが見ていた
二見修治 3
「上原さん、意識戻りましたよ!」
看護師が興奮を隠しきれない様子でこちらへ駆けてくる。
ソファに体を預けうなだれていた俺は、それを聞いてガバッと体を起こした。
顔を上げたのは何時間ぶりの事だったか、すぐに思い出せない。
いつの間にか完全に夜の気配は消え去って
待合室は優しい朝の光で満たされていた。
「本当か!?」
「はい。でも、診察が終わるまでもう少し面会はお待ち下さい」
俺は返事をするのも忘れて、再びソファに倒れ込んだ。
一晩中気を張っていたせいで、体は極限まで疲れ切っていたが
そんな事はどうでも良かった。
何もかも関係なかった。
「よかった……」
無事の知らせにただただ安堵して、また涙腺が緩む。
久しぶりに深く呼吸が出来た。
澄んだ冬の空気は、ゆっくりと全身を巡る。
早く顔が見たい、と思った。