リナリアの王女
第六章:近づく距離、初めの喧嘩?
 
 ―コンコン―

この前と同じようにクラウドの執務室の扉を叩く。

「入って良いよ」

この前とは違い、扉の向こうから聞こえたのはこの部屋の主であるクラウドの声だった。
私はゆっくりと扉を開ける。
「クラウド、今忙しい?」
「丁度一段落ついたところだから大丈夫だよ。今日は何の用かな?」
「特に用があるというわけではないんだけど、クラウドさえ良かったら、休憩に紅茶を飲まないかと思って」

執務室に向かうまでの間は、クラウドに紅茶の差し入れをするんだって意気込んでいたくせに、いざとなるとクラウドの様子を窺ってしまう自分が情けない。
「エリーゼが入れてくれるのかい?じゃあお願いしようかな」
柔和な笑みを湛えながらクラウドはそう言ってくれた。
それだけで心が少し弾む。
「もう準備してきたの。じゃあ入れるわね」
私が笑顔でそう言うとクラウドが何故かクスクスと笑い出した。
「どうして笑うの?」
「いや、もう準備してあるのならわざわざ聞かなくても良いのにって思ってね」

それは確かにそうなのだが、もう休憩し終わった後かもしれないし、何より図々しいなと思われたくなかったからだというのに。

「だ、だってお仕事中だったら悪いじゃない」
「そうだった場合はどうしたんだい?」
「それは・・・自分で飲むわよ」
「もう今日はお茶会をした後だろう?また飲むのかい?」
更に笑いながらそう聞かれた。
「どうしてお茶会をした後だって分かるの?」
確かにお茶会をする事は私の日課になっているけれど、時間も場所もまちまちだし、何より誰にも言ってないのに。

「実はね、ここから見えるんだよ」
あのバラ園がね、とクラウドは言った。


そして、こっちにおいでと。





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