溺愛宣誓
飛んで入りたい春の虫



::::::::::【九章】:::::::::::::





「悪い。待たせたか。」


一日の仕事が終わり会社の前に立っていると織田さんがやってきた。


「いいえっ。私も今終わった所です。」


相変わらず格好良い織田さんにドキドキしながら私がそう答えれば織田さんはこれ以上無い程柔らかい笑顔を浮かべて見せる。


きゅん。

ああ…この人は一体どこまで私の心を奪う気なんだろう。


私が照れて視線を俯き加減にしてソワソワしているうちに織田さんが「さぁ、帰ろっか」と身を翻した。


「えっ…あ。ちょっと待って下さい。そっちは………」


思わず織田さんのスーツの裾を掴む。


ビジネス街と織田さんの家、私の家の位置関係は丁度、二等辺三角形のよう。

会社から織田さん家に真っすぐ帰るのと、私の家へ真っすぐ向かうのは同じくらいの距離でも道が違う。

そうして今織田さんが迷いなく選んだ道は、私の家へ向かう道だ。


肩越しに私を振りかえる織田さんの顔がほんの少し意地悪で、私は真っ赤になって俯く。


「コッチは、何?カノを送るべくカノの家に向かう路だよな。」


やっぱりちょっと意地悪な声音に私は益々赤くなって、でもスーツを握る手は放せずぎゅっと力を込める。


すると、



―――クスリ……

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