恋する淑女は、会議室で夢を見る
箱入り秘書に自由はない


秘書課での挨拶を済ませた真優は
瀬波と一緒に桐谷専務の執務室に入った。

入って右側の壁際にある、大きなデスク。
そこに座っているはずの桐谷専務は、直行で出かけているらしく不在である。


左側にある応接セットに促され、

「座ってください」

「はい」

真優は、瀬波から今後の仕事の説明をうけた。



お茶出しに簡単な掃除、電話や来客の応対や郵便物、メール、FAXの整理のような雑務から、
専務や瀬波から指示された書類の作成やファイリングにスケジュール管理など事務的作業
ざっと説明されただけでも、
真優がやるべきことは山ほどありそうだった。


「…
 ということで 何か質問はありますか?」


正直、説明を聞いただけでは漠然としていて、
質問のしようがない。



でも、聞きたいことはあった。





瀬波は、まっすぐに真優を見ている。


ドキドキ


秘書の瀬波は腰が柔らかく、穏やかな表情を浮かべているように見える。
でもその穏やかな表情の中に、
何を隠し持っているのかまったく見当がつかない。


見つめられると、全てを見透かされそうで
やましいことがなくても何か悪いことをした気分になってしまう。

目を逸らしたくなってしまう弱気な気持ちを叱咤して
真優はどうしても気になることを聞いてみることにした。




「あの…
 仕事のことではないんですが」


それは先日専務に直接聞いて
『さあ どうしてだろうね。瀬波が決めたことだから、彼に聞いてみたら?』
と気のない返事をされた質問である。



「はい
 何でしょう」



「あの…
 どうして私が、専務の秘書ということになったんですか?」


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