シルビア
第3章

◇「祈ってる」






手に触れただけで、拒んでいた彼

なのに、あの瞬間抱きしめる腕を受け入れられたのは、悔しいけれど心が押し殺していた感情が見えているから。



懲りることのない、弱いままの私の心は。







「三好さん、展示会のディスプレイ案いいじゃないですか!」



ある日の午後。フロアで発注書を片手に仕事をしていると、やってきた葛西さんは明るい声をかけた。



その手には、先日私が上に提出した展示会のディスプレイ案。

会場のレイアウト図面や展示商品が細かく書き込まれているその紙に、ようやく目を通したのだろう。彼はうんうんと納得しながら内容を褒める。



「清廉さや純白感ってありそうであんまりないテーマですもんね。それにネクサスとの商品との組み合わせもいい感じになりそうで」

「えぇ。ロマンチック系や可愛い系より少しナチュラルで大人向けを目指してみたの。丁度いいインテリアもいくつかあったし」



長いことまとまらなかったディスプレイ案。けれど、以前打ち合わせでテーマを決めてからはあれこれと決まり、あっという間にまとまった。

まだイメージでしかないけど、今度実際にネクサス所有の物流倉庫に行って、実物を見せてもらってサイズ感を確認すればもっと現実味を帯びるはず。



やることは沢山あるのに、時間はあと一ヶ月くらいしかない、急がないと。

そう急ぎたくなる気持ちを抑えるように、私はカップの中の緑茶をひとくち飲んだ。



「……ところで」



そんな仕事の話の最中、小さくつぶやいた目の前のその顔はニヤリと笑う。



「な……なによ」

「この前の合コン、どうでした?彼氏出来ました?」

「うるさい。出来てない」

「えー?佐田くん、あんなに三好さんのこと気に入ってたのに?」



望の言っていた佐田くんの評判のことは知らないのだろう。

ニヤニヤと先日の合コンの成果をうかがう彼に、佐田くんとのことを思い出し、けど敢えてそれらは言わずに乾いた笑いで飲み込んだ。



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