私の師匠は沖田総司です【下】
師匠、さようなら
雨が屋根を叩く音が響くなか、俺は寺田屋の玄関でブーツの紐を結び、外に出る準備をしていた。

「龍馬」

名前を呼ばれて後ろを振り返ると、そこには以蔵が仁王立ちで立っている。

俺は以蔵を一瞥だけして、再び紐を結び始めた。

「どこに行くんや」

「別に。どこでもいいだろ」

そっけない返事をして近くにあった傘を掴み、外に出ようとしたら以蔵が俺を通せんぼした。

しばらく無言でお互いを見合う。

俺は理由を話さなければ、梃子でも動かなそうな以蔵を見て観念したようにため息をついた。

「……蒼蝶と待ち合わせしてんだ。だから通してくれ」

「蒼蝶ちゃんと?」

「そうだよ。町を離れる前に会う約束したんだ」

「そうやったん。でも、今、雨が降ってるで。蒼蝶ちゃん来るやろうか?」

以蔵の言う通り、外は雨が降っている。

どしゃ降りと言っていいぐらいの雨だ。

普通の奴だったら来ないだろうな。

でも、蒼蝶ならこんな中でも来る気がした。

「来なくてもいいから行く。もし、来てたら待たせるのも悪いからな」

「そうやな。でも、頃合いをみて帰ってくるんやで」

「はいはい」

以蔵に生返事をして外に出る。

傘を開き、数歩外に出るだけ足が濡れた。
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