落ちる恋あれば拾う恋だってある
あなたと恋に落ちるまで
◇◇◇◇◇



ふらふらと駅まで歩いた。

電車の時間、調べなきゃ……。

そうしてカバンの中のスマートフォンを探すと、手帳に挟んでいたカードが飛び出した。それは椎名さんが初めて早峰に来たときにもらった名刺だった。

どうしてこんな時に存在を主張してくるの……。

椎名さんの声が聞きたい。優しく私を気遣ってくれる声が。

スマートフォンを手に取り名刺の番号に電話をした。
社用携帯にかけても今の時間出てくれる可能性は低いと分かっていた。それでも椎名さんの番号はこれしか分からない。
数秒の呼び出し音が数分にも感じられた。

とにかく声が聞きたい。今は意地悪な言葉だっていい。私の名前を呼んで。

「はい、椎名です」

「…………」

ああ、やっと聞けた……。

「もしもし?」

「っ……」

「もしもーし」

「うっ……あっ……」

涙が出た。椎名さんの声を聞いたら安心してしまった。

「……夏帆ちゃん?」

「うぅ……」

「夏帆ちゃんでしょ?」

「しい、なさっ……んっ……」

嗚咽で言葉にならなかった。涙を止めようとしても呼吸が落ち着かない。

「どうした?」

「はぁ……っ」

これでは会話にならない。私は深呼吸するのに必死になる。

「夏帆ちゃん今どこ?」

「っえ、駅っ……」

「迎えに行く。俺が行くまで待てる?」

「はい……」

「そこから動かないで」

「はい……」

「じゃあ後でね」

電話が切れると駅の目の前のベンチに座り膝に置いたカバンに顔を埋めた。

こんな時に声が聞きたいと願って、私のもとに来てくれるのは恋人ではない椎名さんなんだ。









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