桜ノ華
揺れる思い
夏休みが明けて、残暑、初秋の季節となった。
颯介とは定期的に会い続けている。
最初は、婚約者だから、という義務感で。
少し前までは、誘われるから、という受け身で。
最近では、次はいつ誘われるかな、どこに連れて行ってくれるのかな、と、
楽しみになりつつある自分がいて。
このまま一緒にいればきっと好きになれると、
少なくとも不幸な結婚にはならないと思っていた。
もちろん、心の片隅に、"彼"の姿は消えないけれど。
「桜、久しぶりだな」
「お久しぶりです、啓志さん。
生徒会の仕事が終わってからは会いませんでしたもんね」
「ああ、君が恋しかった」
啓志の繊細な指先が、桜の長い髪を掬う。
愛しそうなその視線が、甘い声が、言葉が、
桜の胸を突き刺した。