2・5次元の彼女
第9章 最後なら、わがままを
***第9章***




「水原さん、上の空ですね」

手痛い指摘を受けて、景斗は我に返って顔を上げた。
小洒落た居酒屋の薄暗い照明の下、正面に座った綾の瞳が真っ直ぐにこちらを見据えていた。

「そ、そんなことないですよ」

動揺で裏返った声が、今答えた言葉が嘘であることを物語っていた。
ごまかすかのごとく、目の前にあったカクテルをぐっと飲み干す。

そもそも、デート中だというのに、相手にこんな疑念を抱かせてしまう時点でありえない。
別の女性のことで頭がいっぱいだなんて、なんて失礼なのだろうかと、景斗は自分でもよくわかっていた。

それでも、心は止められない。


――もういいの、放っておいて――


夕べ、そう叫んで出て行った彼女の後ろ姿を頭の中から切り離すことができずにいた。
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