腹黒教師の甘い策略
白いバレッタside谷崎



「先生、先生!」


「……ああ、ごめん。授業を続けます。」


一人の生徒の呼び掛けに、今が授業中だということを思い出し、慌てて教科書を持ち直す。



黒板に文字を書きながら、
今日のことを思い出す。


……あんな顔で泣くのは、ずるいだろ。


戸川を見て泣き出す有沢を放っておけなかった。ただそれだけだと自分に言い聞かせてみても、思い出すのは、俺の胸にしがみついて、体を震わせる有沢の姿。
今着ているあいつのジャージを見るたびに、あいつの匂いが、体温が、脳裏に浮かぶ。


「徒然草は、鎌倉時代に吉田兼好が書いた随筆で……、」


あらかじめ書いておいた文章を淡々と読む。
生徒たちに向かって話をしていても、きっと俺の顔は今、相当上の空なんだろう。


有沢を抱き締めたとき、
白い髪留めが後ろに見えた。


……なんて言ったっけ、あれ。
バレット?バケット……違うな。


以前、妹の誕生日に、
ねだられたものとよく似ていた。


「…バレッタじゃない?」


「…えっ。」


あきれた様子でそう呟いた女子生徒のその言葉と同時に、
スピーカーからチャイムが鳴り響いた。


……いつの間にそんなに時間経ってたんだ。

て言うか、今全部声に出てたのか?


「…先生今、なんて言ってた?」

「あの髪留め何て言うんだっけ。
バレット?バケット?って言ってた。

何々?彼女にでもあげるの?」


興味津々に聞いてきた生徒たち。
教卓の周りにはあっという間に生徒たちに囲まれた。


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