恋人は魔王様
3.まさかの承諾
「名前は?」

私は車から降りる前に、『魔王様』に問う。
とりあえず、どこの誰だか分からない人(?人、だよね。私はそう信じてるんだけど)を親に紹介するのは気が引ける。

だからといって、≪この人、「魔王様」っていうの。さっき突然現れて私にキスしちゃったから、今日から恋人になるんだ~♪よろしくねってママに挨拶に来たの☆≫などとさらりと説明できるようなタフな精神力も、非日常的想像力も持ち合わせていない。

私はいたってフツーの、どこにでもいるような女子高生なんだからっ!
日ごろから面白話を探しているお笑い芸人の卵でもなければ、柔軟な妄想力に満ち溢れた少女小説家でもない。決して。

「ユリア、人に名前を聞くときはまず自分から名乗れと教わらなかったか?」

子供を諭すように言う『魔王様』。

「生憎だけどそんなこと一度も教わらなかったし、そもそもあなたは私の名前知ってるじゃないっ」

「日本人なら苗字があるはずだ」

黒い、漆黒の闇のように暗い瞳が私を捉える。

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