光りの中
姿月
 時間は既に夜中の十二時を過ぎている。

 暦が替わり、日付は八月の一日。


 新たに始まる十日間の為に、僕はライトのゼラチン(色を変える為のフィルム)を新しいものに交換していた。

 それと、少ないライトの数をどうにか効果的にしようと、その角度を変えたりする作業に没頭していた。

 盆と正月は劇場にとっての掻き入れ時だ。

 どの劇場も普段以上に出演者を豪華にしようと、人気の踊り子の取り合いになる。

 AV(アダルトビデオ)というものが世に現れ、その世界からストリップへと流れて来る踊り子が増えて来てからというもの、どの劇場もAV出身の踊り子を客寄せのメインにしようとした。

 確かに集客力はある。

 だが、それも程度というものがあって、聞いた事も無いような名前のAV嬢なんかが出演しても、それ程の有り難みは無いものだ。



 姿月という踊り子も元AVという冠を被されていた。

 前日迄出演していた踊り子の中に、二人ばかり姿月の後輩が居た。

 彼女達から姿月の事をちらっと聞いていたが、話しから想像した姿月の印象は、

 気難しい踊り子……

 照明に厳しい踊り子……


 であった。


 まあ、それ位ならどうって事ないか……

 照明の注文がどう煩かろうが、うちの照明じゃ遣れる事が決まってる……


 開き直り……


 初日を迎える準備というものは、ちょっと不思議な高揚感に包まれる。

 まだ半年にも満たない劇場経験だから、初めて出会う踊り子の方が多い。

 心の何処かで何かを期待している自分が居る。

 楽屋の部屋割も決まり、数時間後には出演する踊り子達が乗り込んで来る。

 一足先に荷物だけ送られて来ていた。

 姿月のものだ。

「重いなぁ」

 若いマネージャーが呟く。

「そう言えば、カンナちゃんが言ってましたけど、姿月さんと百華さんは香盤も部屋も別の方がいいよって」

「面倒クセエなあ」

 初対面の前から、従業員の間に於ける姿月の印象はマイナスポイントばかりが累積されていた。




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