【短編】会いたいと切に願う
あのときいちごと



「寒くなってきたな……」



夜の雑踏を一人で歩きながら呟いていた。


そんな私とは対称的に、十一月の街はすっかりクリスマス気分。

既に点灯したイルミネーションが、街の賑わいに拍車をかけ、さらにはカップル率アップ。


白い吐息にかじかむ手足。

寄り添うカップルを眺めながら一人の寂しさを痛感し、今はいない一五のことを思い出していた。



『会いたくなったら俺のこと呼べよ?』



そう言い残して私の元から去っていった一五。


あなたとの繋がりは、別れ際に渡された一枚の紙。


―――――――――――――――


  雨が降る田んぼの中で

  ヨルノナカヨンデミテ

           下重一五


―――――――――――――――



普通さぁ……。
別れ際にこんな紙渡すかなぁ?

しかも文章ちょっとおかしいし。


だけどね、一五に会いたくて柄にもなく実行してみたの。


近くの田んぼ探しだして、雨が降る夜に呼んでみたのよ。



「いーちーごー!!」



ってね。


あなたは現れなかった。
……ま、当たり前か。

我ながら馬鹿だなぁって思うよ。魔法使いでもないんだから、呼ばれたからって現れるわけないのにね。



「あっ、雪……」



どうりで今日は寒いはず。

空からは白い粒が舞い落ちてきていた。

私は手のひらを広げ、それを掴み取る。


手のひらの上で、白い粒は瞬く間に透明な液体へと変化し消えていく。


まるで一五みたい。


私の前に突然現れて、あっと言う間に去っていった彼。


そう言えば……

一五と初めて会った日もこんな風に雪の降る日だったな。





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